対談企画「逆境のインサイト~失敗の先にある価値~」Vol.1
文藝春秋・竹田直弘×ENCOUNT・柳田通斉が送る「失敗のススメ」後編
今の時代を生きるすべての人々へエールを届ける対談企画「逆境のインサイト~失敗の先にある価値~」。第1回は株式会社文藝春秋・執行役員で『文春オンライン』初代編集長の竹田直弘さんと、『ENCOUNT』エディトリアルチェアマンの柳田通斉(元日刊スポーツ新聞社)が「失敗のススメ」を説きます。
メディアの第一線で数々の修羅場をくぐり抜けてきた2人が、興味深い実体験を基に贈る“生きたメッセージ”。
後編では何を語ってくれるのでしょう。
(前編はこちらから)
■取材を終えて退出後…「あ、録音してなかった」
柳田 竹田さんも取材する中で何か失敗というか、印象に残ってることってありますか。
竹田 いや、もう最初から失敗してましたね。週刊文春時代の2000年に沼津でストーカー殺人事件があって、現地でその犯人の素性を調べてたら「元彼女」だという人に行き当たったんですよ。その人もちょっと危険な目に遭ってたみたいで、何をされたか、どういうことを言われたか、よく喋ってくれて。何時間も話を聞けたし、他の記者も来てないし、僕らの独占だ!と盛り上がっていたんですけど、「ありがとうございました」って家を出たら「あ、録音してなかった……」(笑)。
柳田 ありますね、それ(笑)。
竹田 ありますよね? あっ! えっ?! っていう。
柳田 青ざめますね(笑)。
竹田 もう本当に青ざめます。記者はみんな、1回くらいは経験あるんじゃないですかね。とりあえず記憶をたぐり寄せて、もうワーって覚えてることを全部ノートに書き留めて(笑)。そんな時に限ってデスクから電話がかかってきて「どうだ、締め切りの時間だぞ」と。でも、こちらも必死だから、意外と核心の部分を覚えているもので、まあ何とか事なきを得たというわけです。
柳田 僕もサッカー担当だった時、青ざめたことがあります。ナイター取材の場合、早版の締切があるからゲームが終わった瞬間に原稿出さなきゃいけない。ある日、Jリーグでジュビロ磐田の取材をした時ですよ。当時はパソコンの精度がよくなかったので、原稿を書いてたんだけど突然固まっちゃう。
竹田 ああー怖い怖い、それも(笑)。
柳田 しかも、残り10行で原稿が完成するっていう状況で、電源切るしかないわけですよ。
竹田 ええー! (書いた原稿が)消えちゃうんですか。
柳田 全部消えちゃったんだけど、当時は写メとかもできない。だから、締切まで残り7、8分で、また一から全部書き直し。でも、必死だから書いたことを思い出しながら、とにかく指を動かす。あれが一番の恐怖体験でした(笑)。
竹田 もはやホラーですね(笑)
■愛人宅へ通う政治家の姿を公園で取材中に起きたトラブルとは…
竹田 僕は失敗ではないけど、警察を呼ばれることは結構ありました。
柳田 張り込みをしてる時に「不審者がいる」って通報されるとか?
竹田 そうなんです。ある時、当時自民党幹事長を務めていた山崎拓氏の愛人疑惑があって。結果的に愛人は複数いまして、ややこしいので今は説明はしませんが、最初に報じた女子大生の方は……。
柳田 女子大生(笑)。
竹田 女子大生と交際してたんです。さらに、その方が統一教会に出入りしていたこともあって大問題になって、結局山崎さんは幹事長を辞めることになるんですけど。
柳田 すごいですね。幹事長の首を飛ばすくらいのスクープを取ってる。
竹田 いや、僕は取材班の一員で、張り込みを担当していただけなのですが。で、ある大きい公園の前にその女性のマンションがあって、夜な夜な山崎さんが「自民党」って書いてある茶封筒で顔を隠しながらやってくる(笑)。
柳田 (笑)
竹田 この現場をなんとか押さえようとカメラマンと一緒に行って。「不肖・宮嶋」こと宮嶋茂樹さんという方です。
柳田 有名なカメラマンですね。
竹田 で、もう1人、「忍者・大倉」と呼ばれていた大倉(乾吾)さんという相棒がいて、当時その2人と張り込みをしたんですけど、めちゃくちゃ怖かったんです。宮嶋さんには缶コーヒーの銘柄を間違えて、よく怒られました(笑)。
柳田 (笑)
竹田 「お前、何やってんだ。エメマンやろ、エメマン。エメラルドマウンテン。何度言ったら覚えるんや。おい、バンブー」って。「バンブー」というのは僕、竹田なので。
柳田 あ、コードネーム(笑)。
竹田 そう、張り込みの時のコードネームがバンブー(笑)。で、ずっと公園のベンチに座って、そこから山﨑氏がマンションへ出入りするところを見張ってるんですけど、ずっといたらやっぱり通報されて警察が来るんですよね。肩をトントンってされて振り向くと、警察官が「何してんの」って。
柳田 (笑)
竹田 それで怪しまれて長くいられなくなって。

■1年目は失敗の連続も「なんか全員失敗してんじゃん」
竹田 これはどうしようって周りを見たら、ホームレスの方が何人かいたんですよ。「あ、そうか」と思って、ホームセンターで買った布をいい感じに汚して身にまとって座っていたら、まあ誰も言わなくなりました(笑)。
柳田 おおー、ホームレスを演じたわけだ(笑)。
竹田 そうです。山崎氏がマンションに入ってきたら、「今、入りました」ってカメラマンに伝えて。
柳田 ええー、すごい。それだけやってるんですよね。週刊誌の記者って。
柳田 法に触れるようなことはしてはいけないけど、アイデア勝負みたいなとこがありますよね。まあまあいい大学出て、就職して、警察に呼ばれて……なんて、親には言いにくいですけど(笑)。
柳田 「何やってんだ。俺」とは思わなかった?
竹田 そうですね。僕は大学の時に放浪をして留年してるから、あまり抵抗はなかったです。会社自体は、高学歴の文学青年タイプが多くて。そういう人も週刊文春に配属されると、最初はやっぱり失敗の連続。最初から成功する方が少ないと思います。
柳田 その失敗の連続を乗り切れない人もいるんじゃないですか?
竹田 う〜ん、どうでしょう。でも、周りを見るとエース記者も失敗することがあるから、「あ、なんかみんな失敗してるしな」みたいな感じになっていくんですよ。
柳田 なるほど。
竹田 そういう意味では今回のテーマに近いかもしれないですけど、先輩も含め、全員が失敗を見せてくれていたので「失敗してもいいんじゃないかな」と思いましたね。
柳田 なるほど。新聞社の場合はやっぱり、できないとどんどん淘汰されていく感じですね。
竹田 やっぱりそうなんですね。
柳田 できないと判断されると、異動、また異動って。だから、僕はまず最低限、原稿を書けるようにならなきゃいけないと思ったんです。

■見る影もないほど直された原稿「具体的なことを教えてくれない」
柳田:駆け出しの頃に出した原稿は、デスクに跡形もないくらい直されてましたよ。
竹田 ありますね(笑)
柳田 本当に直されて直されて。でも、デスクも具体的なこと教えてくれないんですよ。ただ直して、それを整理部に渡す。毎日この繰り返し。だから、何が悪かったのかが分からない。しかも、ただ現場に行ってこいと言われるだけで、こういう取材でこういう聞き方をしろとか、細かく丁寧な取材の指導は一度もない。その中で「できるやつだけ残れ」という状況なんです。
竹田 へえー。
柳田 とにかく必死だったから、まず直されてる原稿を全部書き写してました。
竹田 あ、それはいいですね。
柳田 全部、一字一句、どこが直されたか自分で確認しながら分かっていくというか。最初に整理部のデスクだった相原斎さんという方の影響はものすごく受けましたね。
竹田 分かります、僕も最初に原稿を直してくれたデスク、島田さんという方なんですけど、本当に直すの上手かったです。
柳田 うちのデスクも直すの上手かったですね。その後、出世して部長になって、編集局長になって、取締役になったんですよ。で、その後、なんか急に遊軍記者として現場に戻ってきたんです。
竹田 ええーっ!
柳田 その時、私がデスクで、相原さんの原稿を見ることになったんです。
竹田 すごい逆転現象(笑)。
柳田 でも、相原さんはしばらく現場離れていたから、なんか上手さが消えちゃっていて(笑)。
竹田 それは柳田さんが上手くなったから、そう感じたんじゃないですか。
柳田 いやいや(笑)。でも、相原さんはすぐに上手さを取り戻しました。執筆は運転と同じで、続けることが大事なんですよ。
■「本人は失敗だと思っているけど、周りからみるとそうではないことがある」
竹田 でも、逆の立場になると、要するに自分が原稿を受けて確認する立場になると、原稿が多少上手くないって、意外とどうでもよくないですか? ちゃんと取材した核心があれば、もっさりした原稿だったりしても、ちょっと直せばなんとでもなるじゃないですか。
柳田 確かに。だから、取材でちゃんと肝心なところを聞いてなかったりすると……。
竹田 そう、それが一番よくない。体裁だけ整ってて、一見まとまってる原稿に見える方がよくないですね。
柳田 ネタが全く入ってないとかね。
竹田 そう。だから、僕も若い頃は原稿を徹底的に直されて、下手なんだろうと思ってたけど、逆から見るとそんなの失敗のうちに入らないのかなと。上手い下手よりバンバンいっぱい記事を出してくれる人の方がいい。
柳田 確かに本人は失敗だと思ってるけど、周りから見るとそうではないことってありますね。
竹田 いざ、自分がマネジメント側の立場になると、意外と景色が違って見えますよね。何かやって失敗するより、何もやらない方がうーんとなる。「これやっといて」と言って、もう1週間も10日も何にも音沙汰がなくて「そういえば、どうなった?」って聞いたら、「いや、ちょっといろいろ調べてて……」とか言われると、「いや、まずやってみて」と言いたくなります。若い頃に自分ができていたかは棚に上げますけど(笑)。
柳田 そう。変な言い訳されたり、明らかに誤魔化しているのなんか分かるじゃないですか、すぐに(笑)
竹田 分かります。嘘つく人は一番ダメです。
柳田 僕は最初にそれやっちゃった(笑)。
竹田 はい(笑)。
■「完全に寝坊です」過去の経験から学んだ「絶対してはいけない」行動
柳田 実は、その何年か後にもう1回、寝坊したんですよ。今度は長寿の双子「きんさんぎんさん(成田きんさん、蟹江ぎんさん)」が横浜でイベントに出るっていうので。年齢的にも、これを逃したらもう会えないかもしれないっていう時に、起きたら昼になってて(笑)。
竹田 ええーっ!
柳田 いや、でもその時はもう、すぐデスクに電話して完全に平謝り。全部、正直に「完全に寝坊です」と言って。怒られたけども、やっぱりこういう時は絶対言い訳しちゃいけないんだなっていうことを、過去の経験から学んだので。長いこと記者をやっていると、必ずこういう失敗はあるんですよ。ノーミスな人はいません。
竹田 そうそう。大谷だって三振してますから(笑)。あんな成功しかしてない人も、信じてた人に裏切られたこともありましたし。多分、成功してる人ほど失敗の数も多いと思いますよ。
柳田 ありますよね。記者をやっていても特落ちしたり、頑張り過ぎたが故に取材対象から嫌われて誤情報を渡されたり。ヒットやホームランを打つこともあるけど、失敗もする。その時は落ち込むけど、新聞記者の場合、毎日打席が回ってくるから引きずっていたらダメなんですよね。
竹田 そうそう。ちなみに、うちの会社では野球に例えると若手から「竹田さん、また出た、その野球例え。全然分かんないんで」とか言われます(笑)。
柳田 あ、ここは大丈夫ですよ。野球メディア運営してますから、のびのび野球例えしてください(笑)。
竹田 嬉しいです(笑)。いや、でも本当に次の打席がすぐ来ると、クヨクヨしてる暇なんかないじゃないですか。それが1週間に1回とか1ヶ月に1回とかくらいしか挑戦してないと、1回失敗したらドーンって落ち込むじゃないですか。そこから1ヶ月、ずっとクヨクヨし続ける。でも「明日また打席が来る」ってなったら、そっちの方が絶対いい。常に自分が打席に立てるようにしておくっていうのが大事ですよね。のびのびと野球例えができてすっきりしました(笑)。

■「今の時代、失敗なんてないから何でもやっといた方がいいよ」
柳田 今はウェブの会社で働いていて、エンタメ系の「ENCOUNT」で編集長をしましたけど、昔は他社に結婚スクープを出されたら、落とした会社はシーンとしちゃって落ち込んだわけです。特に担当記者はショックを受けて。でも、今ではそこも変わってきた。例えば、結婚スクープを一発出したとするじゃないですか。その30分後に、関連した情報を記事として出したら、そっちがヤフトピになって読まれたりするんですよ。だから、ニュースを抜かれても、すぐに取り返せるなって。
竹田 なるほど。頭の使い方ですね。
柳田 そう。だから昔は「次の日どうするか」を考えたけども、今は「その日のうちに逆転できる」。そこは変わりましたね。
竹田 いろいろ基準が増えてきたかもしれませんね。昔は速報勝負で「早い」が一番偉くて、もう2番以降は負け、みたいな感じでしたけど、今って全体のPVだったり、満足度だったり、いろんな数字で評価される。だから、1個の勝負で負けても取り返す術はありますから。
柳田 そうそう。だから、そういうところは臆さないでほしいですね。
竹田 そうですね、僕も文春オンラインを始めた時に「これはやっちゃダメ」みたいなルールを設けるのが嫌だったんですけど、1つみんなに言ってたのは「差別だけはしない」ということ。数字が全然取れなかったというのはよくあるし、記事が賛否両論を呼ぶのは文春というメディアの特性上、避けられないこともある。でも、ひとたび「差別的なメディア」と思われると信頼を取り戻すのは難しいし、尾を引きます。それに、メンバーが胸を張って仕事できるメディアでないと続かないと思っているんですよね。どんな記事をやってもいいけど、差別だけは絶対にやめようという話はしました。
柳田 あとは誤った情報も絶対に流してはいけないし、人を傷つけたり貶めたりすることもダメですよね。
竹田 そうですね。今の時代、失敗しても大体のことはリカバリー可能なので、迷ったらチャレンジした方がいいと思ってます。
柳田 失敗はないです。今の時代。
竹田 いくらでも挽回できる。だから、怒られたら「今、新しい挑戦をしてるから怒られるんだ」って思うようにしています。怒られないということは、何にもしてないってことですから。
柳田 本当にそう(笑)。
竹田 誰かの気に障ったということは、その人の領域でイノベーションを起こしてるからだよね、と思ってます。
柳田 ただ、今は署名記事を出す記者が減ってるんですよ。コメントでアンチが出てくるから。
竹田 そうなんですか。
柳田 でも、そこでいい記事を出せば、業界のいろんな人の目に留まって、思わぬところから声が掛かる可能性がある。だから、そういうところでも臆さないでほしいです。
竹田 失敗しない人なんていないから、いろんなことにチャレンジしてほしいですね。
柳田 それを僕たちからのメッセージにしましょう!
(了)
(対談前編はこちらからご覧いただけます)
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